なぜ美容室や理容室の定休日が月曜日なのか?

理容室や美容室の休みって月曜日のところが多いですよね。月曜日定休にしている意味が何かあるのでしょうか?なんとなく疑問に思ったので、床屋さんや美容院が月曜日を休みにする理由を探ってみました。

理容室や美容室の定休日が月曜日じゃない時代があった!

昭和初期の頃まで全国の美容室や理容室は十七日を定休日としていました。それは髪結業の始祖とされる藤原采女亮政之(ふじわらうねめのすけまさゆき)の歿(没)年月日が武二年(1335年)七月十七日であったためです。始祖の冥福を祈るために命日である十七日を定休日としていたのですね。その後、どうして理容室や美容室の休みは月曜日となったのでしょうか。

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戦時中の電力不足が原因。「休電日」が理容室や美容室の休みを月曜日にした。

第2次世界大戦前後からは、月曜日を定休日とする美容室や理容室が多くなりました。元々多くの人達の休日が土日であり、美容室や理容店を訪れるのも土日に集中していました。そういった理由から理容室や美容室では土日を営業して月曜日を定休日とするところが多かったのです。

しかし全ての理容室や美容室が一列で月曜日定休となった決定的な原因は戦争にありました。第2次世界大戦前後の日本は、渇水や石炭不足などから電力供給が追いつかず、節電や使える時間帯の制限など電気の使用制限だけでは対応できなかったため、「休電日」と呼ばれる電力の供給をストップさせる日を設けていました。

1942年8月14日(昭和17年)、大阪朝日新聞の記事には「休電日を増加 電気冷房に禁止告示」という記事データが残っており、それを読むと当時の深刻な電力不足事情が垣間見られます。

「休電日を増加 電気冷房に禁止告示」全文。

逓信省では昨今の渇水状況に処する応急措置として従来行われていた月二日の休電日を第一種(軍工場)需用については変りがないが第二種需要甲類(軍需及び生拡産業など)に対しては月二日以内、その他の一般需要に対しては月三日以内の休電日を追加指定することになり、本年三月十五日公布施行された電力消費規正告示を改正するとともに新たに電気冷房装置に対する電力の使用禁止告示を制定、右両告示を十四日附官報で公布実施することとなった
休電日の追加指定についてはもちろん今後も依然降雨なき場合を予想しての臨時的対策であり例年この時期には時おり山岳地帯に相当の降雨をみるのを常とし、かく一度天候が崩れさえすれば冬季と異なり水力発電の状況は好転するのであるからその場合逓信当局としては従前通り月二日の休電日の振替指定だけで乗りきるべく本改正にはすこぶる弾力性をもたせることになった、しかし電力使用工場、一般家庭においては一層電力の消費節約に協力することを希望している、また電気冷房装置に対する電力の使用禁止については時局下娯楽的または奢侈的需要に対する電力供給を停止するという本年度電力動員計画の線に沿い決定されたものであるが衛生上乃至作業上やむを得ないものについては除外例を認めることになった

電気パーマ『電髪』

電髪・電気パーマ

1935年(昭和10年)当時のパーマは「電髪」と呼ばれる数十本の電極を頭に付けて電気でパーマをかけるものが大流行していました。業務上、なにかと電気を使う美容室や理容店は、電力供給をストップさせられては店を閉めざるを得ません。休電日に合わせて定休日を設定するしかなかったのです。

つまり休電日が関東の方では火曜日だったのですが、全国的には月曜日だったことから美容室や理容室の定休日は月曜日のところが多いわけです。同じ理由で関東の方は火曜日を定休日にしました。このように、美容室や理容店の休みは、日本の歴史的、社会的背景に由来する理由があったのです。

余談ですが、第二次世界大戦勃発と共に、おしゃれなんかしてる場合じゃない!「ぜいたくは敵だ」「パーマネントはやめましょう」という標語が出され、パーマの自粛が求められました。戦争が終わるまで、実質的にパーマは禁止されていたのです。官製標語で「パーマネントはやめましょう」とは、なんともすごい時代だったのですね。

パーマネントはやめましょう

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なぜ戦争が終わった現在も美容院や理容院の定休日は月曜日が多いの?

第二次世界大戦後、理容業・美容業は安定した収入が得られる職業として就業者が増えていきました。そのため理美容業界は過当競争に陥り、利潤を無視した値下げ合戦などの共倒れしかねない競争が繰り広げられ、経営をしていくことが困難なサロンが増えていきました。それは衛生水準の低下にも繋がり、消費者にとっても不利益をもたらすことになりかねない状況に陥っていきました。業界では保護を求めて国会に陳情を続け、1956年に「環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律」(環衛法)が成立しました。
*2000年の法改正により「生活衛生関係営業の運営の適正化及び振興に関する法律」に名称変更。

適正化規程で理容室や美容室の月曜日休みは続いた

この環境衛生関係営業の運営の適正化に関する法律は、理容組合・美容組合は組合員の健全な営業が阻害される恐れがある場合、「適正化規程」を定め、組合員に対して営業日や営業時間、料金などの制限を課すことができるというものでした。 事実上のカルテルでしたが、独占禁止法の適用は除外されるというものでした。この法律によって組合が決めた月曜日の定休日を組合店は守らなくてはならず、理容室、美容室の月曜日休みは続いていきました。(非組合店の理容室、美容室は関係がありません)
*カルテルとは、企業連合のこと。企業間(事業者間)がお互いの利益を守るために協議して、価格や生産数量や販売地域などで協定を結ぶことです。これらは消費者の利益を損ない、経済の健全な発展を阻害する恐れがあるため、独占禁止法でカルテルは原則として禁止されています。

規制緩和 適正化規程の廃止で理容室の月曜日休みも廃止?

時代は流れ、日本は規制緩和の時代となります。1998年3月末、理容業界も規制緩和の流れを受け、「適正化規定」は全ての都道府県で廃止となりました。そのため、組合による料金、休日、営業方法等の制限は一切できなくなりました。公正取引委員会の指導によって組合加入の理美容室の各店が自由に定休日を決めることができるようになったのです。

それでも床屋は月曜日の定休日が多いですよね?

理容業界は過当競争の激化で低料金競争の行き着く先を学習した業界です。ですから、適正化規程の廃止によって休日や営業方法を自由に決めることができることになっても、おいそれと過去と同じことを繰り返すことはがなかったのだと思います。そういった理由から、適正化規程廃止後も組合による「秩序ある競争」の呼び掛けに耳を傾ける店は多く、現在に至るまで月曜日を休みとする床屋さんは多いのだと思います。

その他の理由としては、1000円カットのお店や非組合店の多くが月曜日も営業をしているため、すでに月曜日営業の美容室や理容室はめずらしい存在ではないので、無理に定休日を月曜日以外の曜日に変える必要性を感じていないということもあります。

また業界が行うセミナーや技術講習会、ヘアショーなどのイベントは月曜日や火曜日がほとんどですので、別の曜日を定休日にすると、こういったものにも参加できなくなります。最新の技術や流行ヘアを提供していくには、こういったものに参加できないというのは、大変なリスクであるため、月曜日を休みとする理容室や美容室は現在でも多いのだと思います。

いかがでしたでしょうか。理容室や美容室が月曜日を定休日とする意味は思いのほか深い理由があったのですね。歴史的、社会的背景や過去の法律、そういったことを業界が経験し、学び、選択し、現在も月曜日休みの美容室や理容室が多いのです。

*理容室や美容室が月曜日を定休日としている由来には諸説があります。内容が異なる説があったとしても、一概に違うとは言いきれません。

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